毎月、会計ソフトから試算表は出てくる。けれど「これを見て何を判断すればいいのか」がはっきりしないまま、ファイルに綴じて終わっている——中小企業の現場でよく起きていることです。試算表は決算を待たずに会社の今の状態がわかる、月次でいちばん早く手に入る資料です。この記事では、試算表をどこからどの順番で見ればよいかを、経理担当と経営者それぞれの視点で整理します。
試算表とは
試算表とは、その期間までに記録したすべての仕訳を勘定科目ごとに集計した一覧表です。もともとは「借方と貸方の合計が一致しているか(=仕訳に転記ミスがないか)を試しに算する」ための検算表でしたが、会計ソフトが自動で集計する今は、月次で会社の状態を確認するための資料として使われています。
実務でよく出てくるのは合計残高試算表です。1枚の中に次の2つが同居しているのが特徴です。
- 貸借対照表(BS)の部分 — 現金・預金・売掛金・買掛金・借入金など、その時点の残高
- 損益計算書(PL)の部分 — 売上高・仕入・人件費・経費など、その期間に発生した金額
つまり試算表は「今いくら持っているか(残高)」と「この期間でいくら稼いだか(発生額)」を同時に見られる表です。決算書との違いは、決算整理仕訳(減価償却・棚卸・引当金など)が入っていない途中経過であるという点です。ここを押さえておくと、後述する「試算表の利益をそのまま信じすぎない」という注意点が理解しやすくなります。
見る順番① 現金・預金と借入金
最初に見るのは、損益ではなく手元資金です。黒字でも資金が尽きれば事業は止まるため、優先度がいちばん高い情報です。
- 現金・預金の残高 — 前月末と比べて増えたか減ったか。何か月分の固定費に相当するか
- 借入金の残高 — 返済が進んでいるか。新規借入が入っていないか
預金が減っているのに売上は落ちていない、という月は「利益は出ているが回収が遅れている」可能性があります。日々の入出金の見通しそのものは試算表では追いきれないため、資金繰り表の作り方で別に組むのが基本です。
見る順番② 売掛金・買掛金・棚卸資産
次に見るのは、資金が寝てしまう場所です。
- 売掛金 — 売上の伸びに比べて不自然に増えていないか。増え方が売上を上回っていれば回収の遅れを疑う
- 買掛金 — 支払いの先延ばしで一時的に資金が見えているだけではないか
- 棚卸資産(在庫) — 積み上がっていないか。在庫は「売れていない仕入」が形を変えたもの
この3つは、月次の利益が出ているのに資金が苦しい、というずれの原因になりやすい科目です。売上規模が同じでも、ここが膨らむと必要な運転資金は増えます。
見る順番③ 売上高と限界利益
ここでようやく損益を見ます。ただし、いきなり当期純利益を見ないのがコツです。
- 売上高 — 前月・前年同月と比べてどうか。単月の増減は季節性に左右されるため、累計も併せて見る
- 変動費(仕入・外注費・材料費など) — 売上に連動して動く費用。売上との比率が変わっていないか
- 限界利益(売上高 - 変動費)と限界利益率 — 売上1円あたり、固定費の回収と利益に回せる割合
限界利益率が下がっていれば、売上が伸びていても「安く売った・原価が上がった」というサインです。ここは値決めや採算判断の土台になる数字なので、金額よりも率の変化を追ってください。考え方は損益分岐点とは?で計算式から解説しています。
見る順番④ 固定費と利益
最後に、固定費と利益を見ます。
- 人件費・地代家賃・リース料など固定費 — 売上に関係なく毎月出ていく額。前月と比べて段差ができていないか
- 営業利益 — 本業でどれだけ稼げたか
- 経常利益・当期純利益 — 借入利息や臨時の損益を含んだ結果
固定費は一度上がると簡単には下がらないため、増えた月には「何が増えたのか」を必ず科目まで下ろして確認します。人件費の計画そのものについては人件費計画の立て方で整理しています。
試算表の利益をそのまま信じすぎない
試算表には減価償却費・棚卸の調整・賞与や社会保険料の期間按分などが入っていない場合があります。年払いの保険料や税金がまとめて計上された月は、その月だけ極端に利益が落ちて見えることもあります。月ごとに凸凹が出る費用は、あらかじめ12分の1で按分して見るか、「この月にはこの費用が乗る」と決めておくと、月次の比較が使える情報になります。
単月だけ見ても解釈できない
試算表でいちばん多いつまずきは、その月の1枚だけを見ようとすることです。「売上1,200万円・営業利益80万円」と言われても、それが良いのか悪いのかは1枚では判断できません。試算表が意味を持つのは、次のどれかと並べたときです。
- 前月と比べる — 直前の動きがわかる。ただし季節性の影響を受ける
- 前年同月と比べる — 季節性を排して、去年より良くなったかがわかる
- 予算と比べる — 期初に決めた計画に対して進んでいるかがわかる
- 累計で見る — 単月の凸凹を平らにして、期を通じた着地の見通しが立つ
このうち、経営判断にいちばん効くのは予算との比較です。前月比・前年比は「変化」しか教えてくれませんが、予算比は「そうあるべき姿からどれだけずれたか」を教えてくれます。差異の見方は予算実績差異分析(差異分析)とは?で扱っています。
経理担当と経営者で見るところは違う
同じ試算表でも、立場によって見るべきところは変わります。役割を分けておくと、月次の会議が短くなります。
- 経理担当 — 科目の残高が合っているか、異常な計上が混ざっていないか、締めが期限に間に合っているか。つまり数字の正しさ
- 経営者・部門長 — 予算に対してどうか、限界利益率が落ちていないか、資金は足りるか。つまり数字の意味
経理担当が正しさの確認に時間を取られすぎると、意味を読む側に回す時間が残りません。月次の締めを早める工夫は月次決算を早期化する方法にまとめています。
Excelで比較表を作るときにつまずく点
試算表そのものは会計ソフトが出してくれますが、前月・前年・予算と並べた比較表は自分で作ることになります。ここがExcel作業の負担になりやすい部分です。
- 会計ソフトから出した試算表のレイアウトが変わると、貼り付け先の参照がずれる
- 科目の追加・統合があるたびに、比較表の行を組み替え直す
- 部門別に見たい・商品別に見たいとなると、切り口ごとに表を作り直す
- 実績を1か所直すと、月次推移表・予算比較表・会議資料の3か所を貼り直す
- 前年同月と予算を同じ表に並べると、列が増えて参照ミスが起きやすい
試算表を月別に並べた比較表そのものの作り方は月次推移表の作り方で、行・列の決め方から解説しています。Excel管理そのものの限界については予算管理にExcelの限界を感じたら?でも詳しく整理しています。
ツールを使うとどこが楽になるか
Zidottoは、売上・費用・利益を自由な軸で集計し、予算と実績を並べて見える化できる予算実績管理ツールです。試算表を起点にした月次の運用では、次のような点で手間を減らせます。
- CSV/Excel取込 — 会計ソフトから出した試算表の実績を取り込み、毎月同じ形の表に流し込める
- 前月・前年・予算の同時比較 — 並べる列を作り直さずに、同じ画面で比較できる
- 自由な軸での集約 — 部門別・商品別など切り口を変えても、表を作り直さずに済む
- 修正の即時反映 — 数字を1か所直すと関連する集計に自動で反映され、貼り直しの手間がなくなる
- AIによる要約(解釈) — 表示中のデータを日本語で要約し、どの科目が悪化しているかへの気づきを後押し
具体的な画面イメージや使いどころは活用シーンで、データの保全やセキュリティの考え方はセキュリティで紹介しています。月次の入力に使えるひな形は無料テンプレートで配布しています。
まとめ
- 試算表は、決算を待たずに月次で会社の状態がわかるいちばん早い資料
- 合計残高試算表には、残高(BS)と発生額(PL)が同居している
- 見る順番は、現金・預金 → 売掛金・在庫 → 売上と限界利益率 → 固定費と利益
- 決算整理が入っていない途中経過なので、月ごとに凸凹する費用は按分して見る
- 単月1枚では解釈できない。前月・前年同月・予算・累計と並べてはじめて意味を持つ
- 比較表を毎月作り直しているなら、集計を自動化して解釈に時間を回す