試算表は毎月出てくるけれど、1枚だけでは良し悪しが判断できない——そこで多くの会社が作るのが、月別に数字を横へ並べた月次推移表です。ところが自己流で作ると、期の途中で科目や部門が増えたとたんに崩れたり、毎月の貼り付け作業に時間を取られたりします。この記事では、月次推移表をどう設計すれば長く使えるかを、行・列の決め方から順に整理します。
月次推移表とは
月次推移表とは、勘定科目や部門などの項目を行に、月を列に置いて、同じ項目の数字が月ごとにどう動いたかを一覧できるようにした表です。試算表がその月の断面(スナップショット)なのに対して、推移表は時間の流れを見るための表です。
単月の試算表では「売上1,200万円・営業利益80万円」が良いのか悪いのか判断できませんが、12か月を横に並べると次のことが読めるようになります。
- 傾向 — じわじわ落ちているのか、横ばいなのか
- 季節性 — 毎年同じ月に上がる/下がるという癖
- 異常値 — 1か月だけ突出している月と、その原因になった科目
- 段差 — 人件費や家賃のように、ある月から水準そのものが変わった費用
試算表の読み方そのものは試算表の見方で扱っています。推移表は、その試算表を時系列に並べ直したものだと考えてください。
手順① 行(項目)を決める
最初に決めるのは行です。ここでよくある失敗が、会計ソフトの勘定科目をそのまま全部並べてしまうことです。科目が100行以上並んだ表は、印刷すると読めず、結局誰も見なくなります。
行は「見たときに打ち手につながるか」で選びます。中小企業の月次推移表なら、まずはこの程度の粒度で足ります。
- 売上高 — 必要なら主要な事業・商品グループ別に数行
- 変動費 — 仕入・外注費・材料費など、売上に連動して動く費用
- 限界利益と限界利益率 — 売上から変動費を引いたもの。率も行として持つ
- 固定費 — 人件費・地代家賃・リース料・水道光熱費・その他経費
- 営業利益 — 本業の利益
- 参考指標 — 現預金残高、借入金残高、売掛金残高など、資金に関わるもの
細かい科目は、まとめた行の下に必要なときだけ内訳を置きます。上から順に読むと話が通じる並びにしておくと、会議でそのまま使えます。売上と費用を変動費・固定費に分けておくと、損益分岐点の計算にもそのまま使えます。
手順② 列(月)を決める
列は月ですが、決めることが3つあります。
- 期間の単位を会計期間に合わせる — 4月始まりなら4月を左端にする。暦年で作ると期の累計が出せず、決算との比較で混乱します
- 並び順を固定する — 左から右へ古い順。新しい月を左に挿し続けると、数式や参照が毎月ずれます
- 12か月分の枠を最初に作っておく — 未来の月は空欄のまま用意する。毎月列を追加する運用にすると、追加のたびに合計範囲を直す必要が出ます
最後の点が特に重要です。列は増やすものではなく、最初から用意して埋めていくものと決めてしまうと、月次作業が「貼るだけ」になります。
手順③ 累計・前年・予算を足す
月別の実績だけでは、良し悪しの判断まではできません。12か月の右側に、判断のための列を足します。
- 累計(当期累計) — 単月の凸凹をならして、期を通じた着地の見通しを立てる
- 前年同月・前年累計 — 季節性を除いて、去年より良くなったかを見る
- 予算 — 期初に決めた計画に対して進んでいるかを見る
- 差異(実績 - 予算)と達成率 — ずれの大きさと方向を見る
このうち経営判断にいちばん効くのは予算との比較です。前月比・前年比は「変化」しか教えてくれませんが、予算比は「そうあるべき姿からどれだけずれたか」を教えてくれます。差異の読み方は予算実績差異分析とはで解説しています。
1枚に詰め込みすぎない
12か月+累計+前年+予算+差異+達成率を1枚に並べると、横に30列以上ある表になります。そこまで広げると、画面でもスクロールしないと読めず、会議では誰も追えません。「月別の推移を見る表」と「予算と比べる表」は別のシートに分けるのが現実的です。同じ実績データから2つの見え方を作る、と考えてください。
手順④ 数字の入れ方を決める
表の形が決まったら、毎月どうやって数字を入れるかを決めます。ここを決めずに始めると、担当者ごとにやり方が変わって引き継げなくなります。
- どこから取るか — 会計ソフトの試算表をCSVで出力するのか、画面から転記するのか
- いつ入れるか — 月次締めの何営業日後に更新するか
- 誰が入れるか — 経理担当1人か、部門ごとに入力してもらうのか
- 税込か税抜か — 途中で変えると過去月と比べられなくなります
- 修正が出たときどうするか — 過去月を上書きするのか、修正月に反映するのか
特に最後の2つは、後から揃え直すのがいちばん大変な部分です。最初に決めて、表のどこかに書いておくことをおすすめします。締め自体を早める工夫は月次決算の早期化にまとめています。
Excelで作るときにつまずく点
月次推移表はExcelで作れます。実際、多くの中小企業がExcelで運用しています。ただし、続けていくと次のような壁に当たります。
- 科目が増えると行を挿す必要がある — 期の途中で新しい科目が発生するたびに、全シートの同じ位置に行を挿し、合計範囲を直すことになる
- 部門が増えるとシートが増える — 部門ごとにシートを複製する運用だと、様式変更のたびに全シートを直すことになる
- 会計ソフトの出力レイアウトが変わると貼り付け先がずれる — 科目の並びが変わっただけで、貼り付けた数字が別の行に入る
- 切り口を変えたくなると作り直しになる — 部門別で作った表を商品別で見たい、となると集計を組み直すことになる
- 同じ数字が複数の表に散る — 実績を1か所直すと、推移表・予算比較表・会議資料の3か所を貼り直すことになる
- 合計行の参照ミスに気づけない — 行を挿したのに合計範囲が古いままでも、表は普通に表示されてしまう
最後の1つは特に厄介です。数式が壊れていても表はエラーを出さないため、間違った合計のまま何か月も会議で使われることがあります。Excel管理の限界そのものは予算管理にExcelの限界を感じたら?でも整理しています。
表を作り直さない設計にする
つまずく点をよく見ると、原因はどれも同じところにあります。「集計した結果の表」を手作業で保守していることです。
これを避けるには、持ち方を分けます。
- 持つのは明細 — 「いつ・どの部門・どの科目・いくら」という粒の細かいデータだけを持つ
- 表は集計結果として都度作る — 月別・部門別・商品別は、同じ明細から切り口を変えて出す
こうしておくと、科目や部門が増えても明細に1行増えるだけで、表の構造を直す必要がありません。切り口を変えたいときも、集計の軸を変えるだけで済みます。部門の持ち方については部門予算のテンプレートはどう作る?で階層設計の考え方を扱っています。
ツールを使うとどこが楽になるか
Zidottoは、売上・費用・利益を自由な軸で集計し、予算と実績を並べて見える化できる予算実績管理ツールです。月次推移表の運用では、次のような点で手間を減らせます。
- CSV/Excel取込 — 会計ソフトから出した試算表の実績を毎月取り込める
- 月別・部門別の自動集約 — 明細を入れれば推移表の形は自動で作られ、行を挿す作業がなくなる
- 切り口の切り替え — 部門別・商品別など軸を変えても、表を作り直さずに済む
- 予算との同時比較 — 実績と予算を同じ画面で並べられる
- 修正の即時反映 — 数字を1か所直すと関連する集計に自動で反映される
- AIによる要約(解釈) — 表示中のデータを日本語で要約し、どの月のどの科目が動いたかへの気づきを後押し
具体的な画面イメージは活用シーンで、実際の画面は画面ツアーで確認できます。月次の入力に使えるひな形は無料テンプレートで配布しています。
まとめ
- 月次推移表は、試算表を時系列に並べ直して「傾向・季節性・異常値・段差」を読むための表
- 行は会計ソフトの科目を全部並べず、打ち手につながる粒度にまとめる
- 列は会計期間に合わせ、並び順を固定し、12か月分を最初に用意して埋めていく
- 累計・前年・予算を足してはじめて良し悪しが判断できる。ただし1枚に詰め込みすぎない
- 税込/税抜と過去月の修正ルールは、最初に決めて書いておく
- Excelは行の挿入・レイアウト変更・切り口変更に弱い。明細を持ち、表は集計結果として都度出す設計にすると壊れない