部門別に損益を見ようとすると、必ず「本社の家賃は誰が負担するのか」「経理と総務の人件費はどの部門の費用なのか」という問題にぶつかります。特定の部門に紐づかないこうした費用を各部門へ割り振ることを配賦といいます。この記事では、配賦基準の選び方と手順、そして「そもそも配賦しない」という選択肢までを整理します。部門別損益そのものの作り方は部門別損益とはにまとめています。
配賦とは何か
配賦とは、複数の部門が共通して使っている費用を、一定の基準で各部門へ割り振ることです。対象になるのは、たとえば次のような費用です。
- 本社の家賃・水道光熱費 — 全部門が同じ建物を使っている
- 管理部門の人件費 — 経理・総務・人事は、どの営業部門のためにも働いている
- 全社共通のシステム費用 — グループウェア・会計ソフト・通信費
- 役員報酬・全社の広告宣伝費 — 特定の部門の売上のためだけの支出ではない
配賦をしても全社の合計は1円も変わりません。共通費という1か所にあった金額が、部門の列へ移動するだけです。つまり配賦は、税務や決算の数字を作るための作業ではなく、社内で部門の採算を判断するための作業です。目的が判断であるということは、「判断に役立たない配賦はしなくてよい」ということでもあります。
配賦の目的は「正確な部門別利益」を作ることではありません。部門ごとの意思決定を助けることです。基準に唯一の正解はなく、会社が説明できる基準であれば十分に実務に耐えます。
まず「配賦しない」を選択肢に置く
部門別損益をこれから始めるなら、最初から配賦する必要はありません。「共通」という部門を1つ作り、共通費をそこに置いたままにするやり方で、多くの目的は達成できます。
- どの部門が稼いでいるかは、配賦しなくても分かる — 売上と直接費だけで比べられる
- 共通費の総額が見える — 各部門に散らしてしまうと、全社でいくら使っているかが見えにくくなる
- 議論が「配賦基準の妥当性」にすり替わらない — 配賦を入れた途端、部門長は基準の不公平さを指摘し始める
- あとから配賦を足せる — 逆に、配賦してしまった数字を配賦前に戻すのは手間がかかる
配賦が必要になるのは、「この部門は全社の共通費まで賄えているのか」を問いたくなったときです。撤退・縮小・値上げといった判断が視野に入って初めて、配賦後の利益が意味を持ちます。そこまでの段階では、配賦しない部門別損益で十分に前に進めます。
配賦基準の代表例と向き・不向き
配賦する場合、何を基準に割り振るかを決めます。中小企業でよく使われるのは次の4つです。
- 売上高比 — 各部門の売上高の構成比で割り振る。計算がいちばん簡単で、データも必ず手元にある。ただし売上が伸びた部門ほど共通費を多く負担するため、伸ばした部門の利益が伸びにくく見える点に注意
- 人数比 — 在籍人数(または人件費)の構成比で割り振る。総務・人事・福利厚生など、人に付いて発生する費用と相性がよい
- 面積比 — 使用している床面積の構成比で割り振る。家賃・水道光熱費・清掃費など、場所に付いて発生する費用に向く
- 利用実績比 — 実際に使った量で割り振る(システムのライセンス数、配送件数、作業時間など)。最も納得感が高い一方、毎月データを集める手間が発生する
基準は「その費用が増える理由」に近いものを選ぶ
どれを選ぶか迷ったら、その費用が増えたり減ったりする理由に近い基準を選びます。家賃は人が増えても急には増えませんが、席を増やすために広い物件へ移れば増えます。だから面積比が合う。逆に、社会保険の事務や採用の手間は人数に比例して増えるので人数比が合う。この対応が付いていれば、部門長に説明したときに納得が得られます。
費用の種類ごとに基準を変えてかまいません。 家賃は面積比、総務人件費は人数比、全社広告費は売上高比、という具合です。むしろ全部を売上高比で押し切るより、種類ごとに素直な基準を当てたほうが説明しやすくなります。
なお、原価計算の世界には補助部門費を配賦する方法として直接配賦法・階梯式配賦法・相互配賦法といった手法がありますが、補助部門どうしのサービスのやりとりまで織り込む方法は中小企業の月次運用には重すぎます。 共通費をまとめて1回で各部門へ配る形(直接配賦)から始めるのが現実的です。原価の考え方そのものは原価管理とはで整理しています。
配賦の手順
実際の作業は4ステップです。最初の3つは1回決めれば終わり、毎月繰り返すのは4つめだけです。
- 費用を直接費と共通費に仕分ける — 部門が特定できる費用は配賦せず、その部門に直接付ける(直課)。配賦するのは、どうしても特定できないものだけに絞る
- 共通費を性質ごとにグループ分けする — 場所に付くもの・人に付くもの・全社に付くもの、程度の粗さで十分
- グループごとに配賦基準を決める — 面積比・人数比・売上高比などを当て、根拠を1行書き残す
- 毎月、同じ基準で配る — 基準の数値(面積・人数)は年に1回の見直しで足りる。売上高比のように毎月変わる基準を使う場合だけ、月次で構成比を取り直す
配賦しないものを決めるほうが先です。 直課できる費用まで共通費に混ぜてから配ると、本来その部門が負担すべき金額が他部門へ流れ、部門別損益の意味が薄れます。「特定できないものだけを配賦する」を守るだけで、精度は大きく上がります。
よくある失敗
- 基準を毎月変える — 前月と比べたときの増減が、実態の変化なのか基準の変更なのか分からなくなる。多少雑でも基準を固定するほうが情報量は多い
- 基準を細かくしすぎる — 費用の種類ごとに10通りの基準を作ると、毎月の集計が重くなって半年で止まる
- 二重に配賦する — すでに直課した費用を共通費にも残しておき、両方から負担させてしまう。仕分けの段階で一方に決める
- 予算と実績で扱いを変える — 予算では配賦済み、実績では共通部門に残ったまま、という状態は比較を壊す。詳しくは予算と実績の集計単位の揃え方で扱っています
- 配賦後の赤字だけで撤退を判断する — 次の節のとおり、配賦後の利益は部門の存廃を単独で決められる数字ではありません
配賦した数字の読み方
配賦後の部門利益が赤字だったとき、その部門をやめれば会社の利益が増えるとは限りません。その部門をやめても、配賦していた共通費は消えないからです。家賃も経理の人件費も、そのまま残って他部門の負担になります。
判断の材料になるのが貢献利益、つまり「売上 − 変動費 − その部門固有の固定費」です。配賦する前の段階で、その部門が全社の共通費の回収にどれだけ貢献しているかを表します。貢献利益がプラスなら、その部門は共通費の一部を負担できているので、やめると全社の利益はむしろ減ります。
- 配賦後利益 — その部門が全社の費用まで賄えているかを見る(目標として使う)
- 貢献利益 — その部門を続けるべきかを見る(存廃の判断に使う)
つまり、配賦した数字と配賦しない数字の両方を見られる状態が理想です。変動費と固定費の分け方や限界利益の考え方は損益分岐点とはで詳しく整理しています。
予算にも同じ配賦を通す
配賦は実績だけの話ではありません。部門予算を作るときも、同じ基準で共通費を配賦しておかないと、期中に予実を比べられなくなります。
- 予算段階で年間の共通費を見積もる — 家賃・管理部門人件費・システム費用の年額を先に置く
- 実績と同じ基準で各部門へ配る — 基準そのものを予算と実績で共有する
- 月別に置く — 年額を12で割るか、発生する月に置くかを決める。年払いの保険料などは発生月に置いたほうが月次の比較が素直になる
部門予算の組み方そのものは部門予算のテンプレートはどう作る?、差異が出たあとの読み方は予算実績差異分析とはにまとめています。
Excelでつまずくところ
配賦は表計算ソフトでも作れますが、続けていくと次の壁に当たります。
- 配賦の計算式が部門シートに散らばる — 基準を1つ変えるだけで、全部門のシートを開いて直して回ることになる
- 配賦前の数字が残らない — 配賦後の金額で上書きしてしまうと、貢献利益を見たくなったときに戻せない
- 人数・面積の更新漏れ — 基準の元データが別ファイルにあり、組織変更のあとも古い構成比で配り続ける
- 配賦漏れが合計だけでは分からない — 共通費の一部が配られずに残っていても、全社合計は変わらないため気づけない
- 切り口を変えると作り直しになる — 部門で配賦した表を、商品別や拠点別で見たくなると組み直しになる
2つめが特に効いてきます。配賦は元の数字を書き換える作業ではなく、見せ方の1つです。配賦前の明細を残したまま、配賦後の姿も出せる形にしておくのが安全です。Excel管理の限界そのものは予算管理にExcelの限界を感じたら?で整理しています。
配賦を続けられる形にする
Zidottoは、売上・費用・利益を自由な軸で集計し、予算と実績を並べて見える化できる予算実績管理ツールです。配賦の計算基準そのものは会社が決めるものですが、決めたあとに毎月それを回し続ける部分は集計の仕組みで軽くできます。
- 共通のディメンション — 部門 × 勘定科目 × 期間の軸を1か所で定義し、予算も実績も同じ定義を参照する
- 「共通」部門を1つ持てる — 配賦しない運用も、配賦後の金額を各部門に持つ運用も、同じ仕組みで扱える
- 自動集約 — 部門の合計・期間の累計は明細から自動で計算されるため、配賦後の部門別損益を毎月組み直す必要がない
- 切り口の切り替え — 部門別・商品別など軸を変えても、表を作り直さずに見比べられる
- CSV/Excel取込 — 会計ソフトから出した実績や、表計算ソフトで計算した配賦額をそのまま取り込める
- AIによる要約(解釈) — 表示中のデータを日本語で要約し、どの部門のどこが動いたかへの気づきを後押し
具体的な画面イメージは活用シーンで、実際の画面は画面ツアーで確認できます。部門別に費用を並べるひな形は無料テンプレートで配布しています。
まとめ
- 配賦とは、特定の部門に紐づかない共通費を一定の基準で各部門へ割り振ること。全社の合計は変わらない
- 目的は正確な数字づくりではなく判断の支援。始めるときは「共通」部門に置いたまま配賦しない選択肢が有効
- 配賦基準は、その費用が増減する理由に近いものを選ぶ(場所は面積比・人に付くものは人数比・全社共通は売上高比)
- 費用の種類ごとに基準を変えてよい。ただし決めた基準は毎月変えない
- 配賦するのは特定できない費用だけ。直課できるものまで混ぜない
- 配賦後の赤字だけで撤退を判断せず、配賦前の貢献利益もあわせて見る
- 予算と実績で配賦の扱いを揃える。片方だけ配賦した状態は比較を壊す
- 配賦前の明細を残したまま配賦後の姿も出せる形にしておくと、判断のたびに作り直さずに済む