予算も実績も手元にあるのに、並べてみると「この科目は予算側にしかない」「部門の切り方が違う」「実績は月次だが予算は年額しかない」——そうして比較そのものが止まってしまうことがあります。差異分析のやり方以前の問題で、原因はほぼ例外なく集計単位が揃っていないことにあります。この記事では、揃えるべき3つの軸と、その揃え方を順に整理します。
「比べられない」の正体は3つの軸のずれ
予算と実績は、どちらも「いつ・どこの・何の金額か」という3つの軸を持っています。比較が成立するのは、この3つがすべて同じ単位で切られているときだけです。
- 科目の軸 — 何にいくら使ったか(売上高・仕入・人件費・広告宣伝費など)
- 組織の軸 — どこの数字か(全社・部門・拠点・事業・担当者)
- 期間の軸 — いつの数字か(年度・半期・四半期・月)
3つのうち1つでもずれていると、表としては並んでも意味のある差異にはなりません。逆に言えば、「比べられない」と感じたときは、どの軸がずれているのかを先に特定するだけで打ち手が決まります。差異が出たあとの読み方は予算実績差異分析とはにまとめています。
軸① 科目を揃える
いちばん多いのが科目のずれです。典型的なずれ方は次の4つです。
- 粒度が違う — 予算は「販管費」でひとまとめ、実績は会計ソフトの科目で20行に分かれている
- 名前が違う — 予算の「広告費」と実績の「広告宣伝費」が別物として扱われる
- どちらかにしかない — 期中に新設した科目が実績にだけあり、予算側に受け皿がない
- 同じ名前で中身が違う — 「外注費」に、予算では業務委託を含め、実績では含めていない
対応表(マッピング)を1枚作る
科目のずれは、予算側の科目と実績側の科目をどう対応させるかを書いた対応表を1枚作るだけで大半が片付きます。表計算ソフトの1シートで足ります。
- 予算科目 — 予算で使っている名前
- 実績科目 — 会計ソフトから出てくる科目名(複数ある場合は行を分けて同じ予算科目に紐づける)
- 区分 — 変動費か固定費か(損益分岐点の計算にそのまま使えます)
- 備考 — 中身の定義。「外注費に業務委託を含む」のような、後から迷う点を書いておく
多対一の対応(実績の複数科目 → 予算の1科目)は問題ありませんが、一対多は避けます。 実績1科目を予算の複数科目に按分し始めると、按分率の根拠が毎月必要になり運用が続きません。分けたいなら、実績側の入力を分けるのが先です。
予算の粒度は実績より粗くてよい
「予算も会計ソフトの全科目で作るべきか」と迷ったら、答えはいいえです。予算は打ち手を決めるための表なので、細かすぎると立てるのも守るのも大変になります。実績を予算の粒度へまとめ上げる方向で対応表を作れば、比較は成立します。予算をどこまで細かく立てるかは予算編成の進め方でも触れています。
軸② 組織を揃える
組織の軸は、部門・拠点・事業など「どこの数字か」を表します。ここでのずれ方は科目とは少し違います。
- 階層の深さが違う — 予算は「営業部」まで、実績は「営業部 東日本課」まで取れている
- 共通費の置き場所が違う — 予算では本社費を各部門に配賦済み、実績では本社部門に残っている
- 兼務・共有の扱いが決まっていない — 2部門にまたがる社員の人件費をどちらに乗せるか
- 期中に組織が変わった — 部門の統廃合で、4月と10月で部門の意味が違う
深いほうに合わせて、浅いほうへ足し上げる
組織の軸は、細かく持っているほうを正として、粗いほうへ合計するのが原則です。実績が課単位で取れているなら、課の実績を部の予算と比べるために足し上げます。逆に、粗い実績を細かい予算へ割り振るのは按分になるため、根拠を毎月作る羽目になります。部門の階層をどう設計するかは部門予算のテンプレートはどう作る?、部門別に利益を見る話は部門別損益とはで扱っています。
共通費は「配賦しない列」を1つ作る
本社費・共通費をどう配賦するかは会社ごとに答えが違いますが、予算と実績で同じ扱いにすることだけは必ず守ります。判断に迷うなら、まずは配賦せず「共通」という部門を1つ作り、そこに置いたまま予算・実績の両方を持つのが安全です。配賦は後からでも足せますが、片方だけ配賦した状態は比較を壊します。
組織変更があった月は、遡って作り直さない
期の途中で部門が統合されたとき、過去月を新体制で作り直したくなりますが、そこまでやると月次の作業量が跳ね上がります。現実的なのは、変更のあった月から新しい部門で持ち、過去との比較は上位階層(全社・本部)で行うことです。上位で足し上げれば、下の切り方が変わっても比較は成立します。
軸③ 期間を揃える
期間のずれは、気づきにくいわりに影響が大きい軸です。
- 予算が年額しかない — 月別に割り振られていないため、月次実績と比べられない
- 締め日が違う — 実績は月末締め、予算は20日締めの営業日ベースで作られている
- 会計期間の起点が違う — 実績は4月始まり、予算資料は暦年で作られている
- 発生と入金がずれている — 予算は受注ベース、実績は入金ベースで計上されている
年額予算は「割り方の根拠」ごと月別にする
年額の予算しかない場合、月別に割る必要があります。12等分がいちばん簡単ですが、季節性のある事業では毎月ずれ続ける予算になり、差異を見ても意味がありません。前年の月別実績の構成比で割る、繁忙期の月数で重みを付けるなど、割り方を決めて表に書き残しておくところまでを含めて期間の単位合わせです。月別に並べる表そのものの作り方は月次推移表の作り方にまとめています。
税込・税抜も期間と同じ「単位」
軸そのものではありませんが、税込か税抜かも予算と実績で揃える必要があります。実績は会計ソフトの都合で税抜、予算は現場感覚で税込というずれは非常に多く、しかも数%の差として現れるため気づかれにくいのが厄介です。対応表の備考欄に明記しておきます。
単位を揃える手順
3つの軸をいちどに直そうとすると終わりません。順番に進めます。
- どの軸がずれているかを特定する — 予算にあって実績にない項目、実績にあって予算にない項目を書き出す。多くの場合、詰まっているのは1つの軸
- 対応表を1枚作る — 科目・部門・期間の対応を1シートに書く。この1枚が翌年以降も使い回せる資産になる
- 粗いほうへ合わせる — 細かく持っているデータを足し上げて、粗いほうの単位に揃える。按分は最後の手段
- 決めたルールを表に書き残す — 税込/税抜、共通費の扱い、割り方の根拠。担当者が変わっても同じ表が作れる状態にする
この4つを一度やれば、翌月からは同じ対応表を使うだけです。 毎月の作業として繰り返すべきなのは4だけで、1〜3は最初の1回で終わります。
Excelでつまずく点
対応表を作って揃えたあとも、Excel運用では次の壁が残ります。
- 対応表が更新されない — 科目や部門が増えたときに対応表を直し忘れ、新しい項目が集計から漏れる
- どちらにも現れない項目に気づけない — 予算にも実績にも無い項目は、表に行として出てこないため見落とす
- VLOOKUPが静かに失敗する — 科目名の表記ゆれ(全角空白・カッコ違い)で対応が外れ、0として集計される
- 切り口を変えると作り直しになる — 部門で揃えた表を商品別で見たくなると、対応表と集計を組み直すことになる
- 年度が変わると全部やり直しに見える — 前年の対応表を引き継ぐ仕組みがなく、毎年ゼロから作られる
3つめが特に危険です。対応が外れた科目はエラーではなく0として集計されるため、合計だけを見ていると気づけません。Excel管理の限界そのものは予算管理にExcelの限界を感じたら?で整理しています。
そもそも揃える作業を減らす
ここまでの作業は、予算と実績を別々の表として持っていることから発生しています。逆に言えば、両者が最初から同じ軸の上に乗っていれば、揃える作業はほとんど要りません。
- 軸を先に定義する — 科目・部門・期間を1か所で定義し、予算も実績も同じ定義を参照する
- 入れるのは明細 — 「いつ・どこの・何が・いくら」の粒で持ち、表は集計結果として都度出す
- 粗い表は集計で作る — 部門の合計・四半期の合計は、明細から足し上げて出す
Zidottoは、売上・費用・利益を自由な軸で集計し、予算と実績を並べて見える化できる予算実績管理ツールです。予算と実績が同じディメンション(科目・部門・期間)の上に乗るため、比較の前の単位合わせが不要になります。
- 共通のディメンション — 予算と実績が同じ科目・部門・期間の定義を共有する
- CSV/Excel取込 — 会計ソフトから出した実績をそのまま取り込める
- 自動集約 — 部門の合計・期間の累計は明細から自動で計算される
- 切り口の切り替え — 部門別・商品別など軸を変えても表を作り直さずに済む
- AIによる要約(解釈) — 表示中のデータを日本語で要約し、どこがずれているかへの気づきを後押し
具体的な画面イメージは活用シーンで、実際の画面は画面ツアーで確認できます。単位を揃えた予算表のひな形は無料テンプレートで配布しています。
まとめ
- 予算と実績が比べられない原因は、科目・組織・期間という3つの軸のいずれかのずれ
- 科目は対応表を1枚作って解決する。多対一はよいが、一対多(按分)は運用が続かない
- 予算の粒度は実績より粗くてよい。実績をまとめ上げる方向で揃える
- 組織は細かいほうを正として、粗いほうへ足し上げる。共通費は予算・実績で同じ扱いにする
- 期間は、年額予算を月別に割る「割り方の根拠」まで含めて揃える。税込/税抜も同様
- 対応表作りは最初の1回で終わる。毎月繰り返すのは、決めたルールに沿って数字を入れる作業だけ
- 予算と実績が同じ軸の上に乗っていれば、揃える作業そのものが要らなくなる