「利益が出ないから経費を1割削ろう」——販管費の見直しは、こうした一律カットから始まりがちです。ところが全科目を同じ割合で削ると、効果の小さい費用まで現場の手間をかけて削る一方、売上を生んでいた広告や採用まで止めてしまうことがあります。この記事では、どこで増えたかを数字で確かめてから削るための、販管費の見直しの進め方を整理します。
販管費とは
販管費(販売費及び一般管理費)とは、商品を売るためにかかった費用と、会社を運営するためにかかった費用の合計です。損益計算書では、売上総利益(粗利)から販管費を引いたものが営業利益になります。
- 販売費 — 広告宣伝費、販売手数料、荷造運賃、営業担当の給与など、売るためにかかった費用
- 一般管理費 — 役員報酬、管理部門の給与、地代家賃、通信費、保険料、減価償却費など、会社を運営するためにかかった費用
売上原価が「売った商品そのものにかかった費用」なのに対し、販管費は売上の増減と関係なく出ていく費用が多いのが特徴です。粗利が販管費を下回ると営業赤字になるため、粗利を増やす取り組みとあわせて見直す必要があります。粗利側の見方は粗利率の管理でまとめています。
削る前に、固定費と変動費に分ける
販管費の見直しは、まず費用を2つに分けるところから始めます。
- 変動費 — 売上に比例して増える費用。販売手数料・荷造運賃・カード決済手数料など
- 固定費 — 売上が減っても出ていく費用。家賃・正社員の給与・リース料・保険料・システムの月額料金など
変動費は売上が増えれば自然に増えるため、金額が増えたこと自体は問題ではありません。見るべきは売上に対する比率が上がっていないかです。一方、固定費は売上が落ちても減らないため、いったん増えると採算ライン(損益分岐点)そのものを押し上げます。見直しの効果が長く続くのは固定費の側です。
固定費が採算ラインにどう効くかは損益分岐点とはで解説しています。自社の数字で確かめたい場合は、登録不要の損益分岐点 計算ツールに、見直し前と見直し後の固定費を順に入れてみてください。損益分岐点売上高がどれだけ下がるかを、その場で比べられます。
削減の効果は、売上に換算すると大きい
販管費の削減が経営者に好まれるのは、同じ利益を売上で稼ぐより少ない額で済むからです。
たとえば売上高1億円、粗利率30%(粗利3,000万円)、販管費2,800万円の会社では、営業利益は200万円です。ここで販管費を5%(140万円)減らすと、営業利益は340万円になります。同じ140万円の利益を売上の増加で出そうとすると、粗利率30%なら約467万円の売上の上積みが必要です(数字は説明のための例です)。
ただし、この換算は「削っても売上が変わらない」場合にだけ成り立ちます。削った結果として客足や受注が落ちれば、効果は打ち消されます。だからこそ、どの費用が売上を生んでいるかを見分けてから削ることが欠かせません。
販管費の見直しの進め方5ステップ
一律カットではなく、数字で当たりを付けてから手を打つ順番です。
- 科目別に12か月を並べる — 販管費を科目ごとに、少なくとも直近12か月分を横に並べる。単月では、賞与や保険料のように年に数回だけ出る費用に振り回される
- 売上高に対する比率と前年との差で、大きい順に並べる — 金額の大きい科目と、比率が上がっている科目を見つける。前年の同じ月と比べるときの注意点は前年同月比の見方でまとめている
- 中身を契約・明細の単位まで分解する — 「通信費が増えた」で止めず、どの回線・どのサービスの契約が増えたのかまで下りる。科目のままでは打ち手が決まらない
- 「やめる・減らす・替える」で打ち手を決める — 使っていない契約はやめる、使い過ぎは量を減らす、同じ用途でより安い手段があれば替える。打ち手ごとに年間の削減見込み額を出し、効果の大きい順に着手する
- 予算に反映し、毎月実績と比べる — 決めた削減額を翌月以降の予算に入れ、実績が予算どおりに下がったかを毎月確かめる。予算と実績の差の読み方は予算実績差異分析で解説している
ステップ1と2で「どこを見るか」が決まり、3と4で「何をするか」が決まります。5を省くと、削ったつもりの費用がいつの間にか元に戻っていても気づけません。
見直し候補になりやすい費用
中小企業で見直しの余地が見つかりやすいのは、一度決めたあと誰も見直していない固定費です。
- 月額のサービス・サブスクリプション — 退職者や使われなくなったツールのアカウントが、契約されたまま残っている
- 通信費 — 回線やスマートフォンの契約プランが、実際の使用量に合っていない
- 保険料 — 事業の規模や設備が変わったのに、補償の内容が契約当時のまま
- 地代家賃 — 在宅勤務や拠点の再編で、使っていない面積の賃料を払い続けている
- 外注費・業務委託 — 契約の更新が自動で、作業量や単価を見直す機会が無い
- 水道光熱費 — 料金プランの選び直しや、使用量の多い設備の更新で下がることがある
どれも1件ずつの金額は小さくても、毎月・毎年続くため、年間で並べると無視できない額になります。
削ってはいけない費用もある
販管費の中には、将来の売上や利益を生むための費用が含まれています。売上につながっている広告宣伝費、人の育成や採用の費用、品質やサービスを支える費用を一律に削ると、数か月後の売上で取り返しのつかない影響が出ることがあります。削る前に「この費用を止めたら、売上や業務のどこに影響するか」を一行で書けるかを確かめ、影響が見当たらない費用から手を付けてください。特に人件費は販管費で最も大きいことが多く、単純な削減ではなく計画で管理する費用です。考え方は人件費計画の立て方で整理しています。
部門別に見るときは、共通費の扱いを決めておく
販管費を部門ごとに見直す場合、本社の家賃や管理部門の給与のような複数の部門で使う費用(共通費)をどう扱うかで、各部門の数字が大きく変わります。共通費を各部門へ割り振る(配賦する)と、部門長が自分では減らせない費用まで「自部門の販管費」として背負うことになります。
見直しの責任を問うときは、部門が自分で決められる費用(直接費)と、配賦された共通費を分けて並べるのが基本です。配賦の基準の選び方は共通費の配賦とはで解説しています。
Excelで続けるときにつまずく点
販管費の一覧を作るだけなら、会計ソフトから科目別の残高を書き出せば済みます。難しいのは、毎月並べ直して、前年や予算と比べ続けることです。
- 科目の粒度がそろわない — 予算は「販管費」でひとまとめなのに、実績は会計ソフトの科目で20行に分かれていて、そのままでは突き合わせられない
- 12か月を横に並べると表が崩れる — 毎月の試算表を別のシートで受け取り、横に並べ直すたびに貼り付け先の列がずれる
- 部門別に分けると表が増える — 部門ごとにファイルやシートを作ると、全社の合計を出すたびに集計し直すことになる
- 削減の効果を追いきれない — 見直しを決めた月と、効果が出た月の両方を並べる表が無く、削減が続いているかがわからなくなる
まずは販管費を予算と実績で並べる形から整えたい場合は、登録不要の無料テンプレートを使ってください。月次予実管理表は、販管費の科目を入れると販管費合計と営業利益が自動で計算されます。予算と実績の科目の粒度をそろえる考え方は予算と実績の集計単位の揃え方が参考になります。
ツールを使うとどこが楽になるか
Zidottoは、売上・費用・利益を自由な軸で集計し、予算と実績を並べて見える化できる予算実績管理ツールです。販管費の見直しでは、次のような点で手間を減らせます。
- 勘定の階層で販管費を自動集約 — 「財務会計」テンプレートは営業利益の下に売上総利益と販売費及び一般管理費を置いた勘定の階層で始まり、科目を入れれば販管費の合計と営業利益が集計される
- 科目×部門で経費を管理 — 「経費・部門予算」テンプレートは、人件費・広告宣伝費・地代家賃などの経費科目と部門の軸で始まり、部門ごとの予算と実績の差を一覧できる
- 月別に並べて推移を見る — 期間の軸で月を横に並べ、どの科目がいつから増えたかを同じ表で確かめられる
- 予算・実績・見込みを並べる — 削減を織り込んだ予算と実績を同じ表に並べ、効果が続いているかを毎月確かめられる
- AIによる要約(解釈) — 表示中のデータを日本語で要約し、どの科目・どの部門で費用が大きく動いたかへの気づきを後押し
テンプレートの構成はテンプレート一覧で、実際の画面は画面ツアーで確認できます。
まとめ
- 販管費は売上総利益から引かれて営業利益になる費用。粗利が販管費を下回ると営業赤字になる
- 見直しの前に固定費と変動費に分ける。変動費は売上に対する比率を、固定費は金額そのものを見る。効果が長く続くのは固定費の側
- 販管費の削減は売上に換算すると大きいが、削っても売上が変わらない場合に限る
- 科目別に12か月並べる→比率と前年差で大きい順に並べる→契約単位まで分解する→やめる・減らす・替える→予算に反映して毎月比べる、の5ステップで進める
- 売上や業務を支える費用は一律に削らない。止めたときの影響を一行で書ける費用は慎重に扱い、影響が見当たらない費用から手を付ける