「売上は前年並みなのに、利益が残らない」「どの得意先を優先すべきか、営業と経理で意見が合わない」——こうした話は、売上を合計の1行でしか見ていないときに起きがちです。売上の合計が同じでも、中身が「少数の大口に支えられている」のか「小口が広く積み上がっている」のかで、打つべき手はまったく変わります。この記事では、売上を得意先別・商品別に分けて偏りを見るABC分析のやり方を、手順に沿って整理します。
売上分析で最初に見るのは「偏り」
売上分析にはさまざまな切り口がありますが、中小企業が最初に押さえたいのは売上がどこに偏っているかです。多くの会社で、売上の大半はごく一部の得意先・商品から生まれています。これを把握していないと、次のような判断ミスが起きます。
- 大口への依存に気づかない — 上位1〜2社の取引が止まっただけで、売上が大きく落ちる構造になっている
- 手間に見合わない小口に時間を取られる — 売上への寄与が小さい取引に、見積・請求・問い合わせ対応の手間が集中している
- 在庫や仕入の優先順位が付かない — よく売れる商品も、ほとんど動かない商品も、同じ扱いで管理している
偏りを数字で見える形にする定番の方法が、ABC分析です。
ABC分析とは
ABC分析とは、得意先や商品を売上の大きい順に並べ、上から累計した売上の割合(累計構成比)でA・B・Cの3つのグループに分ける分析です。グループ分けの目安としてよく使われるのは次の線引きです。
- Aグループ — 累計構成比がおおむね70%までに入る項目。数は少ないが売上の大半を占める「主力」
- Bグループ — 累計構成比が70%を超えておおむね90%まで。主力に次ぐ「中堅」
- Cグループ — 残りのおおむね10%。数は多いが、1つあたりの売上は小さい
70%・90%という数字は決まりではなく、あくまで目安です。業種や取引の構造に合わせて、自社で説明しやすい線を決めて構いません。大事なのは、一度決めた線を毎回同じに使うことです。線を毎回動かすと、グループの入れ替わりが「実態の変化」なのか「線を動かしたせい」なのか区別できなくなります。
手順① 期間と対象を決める
最初に決めるのは「何を・いつからいつまでで」並べるかです。
- 対象を1つに絞る — 得意先別か、商品別か。両方を1つの表に混ぜない
- 期間をそろえる — 直近12か月、または当期累計。単月だと季節要因や一時的な大口受注で順位が大きくぶれる
- 金額の定義をそろえる — 税抜か税込か、返品・値引を差し引いた後の売上か
特に最後の点は、会計ソフトから出すデータと販売管理システムから出すデータで定義が違うことがよくあります。どのデータを正とするかを先に決めておくと、後から数字が合わずに悩む時間を減らせます。
手順② 売上の大きい順に並べ、構成比を出す
対象と期間が決まったら、項目ごとの売上を集計し、表に次の列を作ります。
- 項目名 — 得意先名や商品名
- 売上 — 期間中の合計
- 構成比 — その項目の売上 ÷ 全体の売上
- 累計構成比 — 上から順に構成比を足し上げたもの
並べ替えは売上の大きい順(降順)です。累計構成比は、1行目は構成比そのもの、2行目以降は「1つ上の行の累計構成比 + 自分の構成比」で求めます。最終行がちょうど100%になっていれば、集計漏れや二重計上がないことの簡単な確認にもなります。
手順③ A・B・Cに分けて、数と金額を確かめる
累計構成比に線を引いて、各項目をA・B・Cに振り分けます。振り分けたら、グループごとに項目の数と売上の合計を並べてみてください。
たとえば得意先が50社ある会社で、Aグループが6社・売上の70%、Bグループが12社・20%、Cグループが32社・10%だったとします(数字は説明のための例です)。この形が見えると、「6社の動きが会社全体の売上の7割を決めている」「32社ぶんの請求・入金管理が、売上の1割のために発生している」といった、合計の1行からは読めない事実が言葉にできるようになります。
累計構成比を折れ線、売上を棒グラフにして重ねた図はパレート図と呼ばれます。会議資料に載せるなら、表よりもパレート図のほうが偏りの大きさが一目で伝わります。
手順④ グループごとに打ち手を決める
ABC分析は、分けて終わりではありません。グループごとに管理の濃淡を変えるための道具です。
- Aグループ — 取引の継続を最優先に、担当者を決めて月次で売上の推移を追う。1社への依存度が高すぎる場合は、Bグループからの育成も並行して考える
- Bグループ — Aへ引き上げられる候補を探す。前年より伸びている項目に営業の時間を寄せる
- Cグループ — 手間を減らす。受注・請求の手続きを定型化する、最低取引額を見直す、取り扱いをやめるといった選択肢を検討する
月ごとの動きを追うときは、ABC分析で選んだAグループの項目だけを行に並べた推移表を作ると、見るべき数字が絞られます。推移表の設計は月次推移表の作り方で解説しています。
売上だけで分けると、利益の出ない「A」を見落とす
売上で並べたAグループの中に、値引きや手間がかさんでほとんど利益が残っていない得意先が混ざっていることは珍しくありません。売上のABC分析ができたら、同じ並びに粗利(または限界利益)の列を足して、売上の順位と利益の順位がずれている項目を確かめてください。売上と費用を変動費・固定費に分けて採算を見る考え方は損益分岐点とはで、その場で数字を入れて試すなら損益分岐点 計算ツールが使えます。
Excelで続けるときにつまずく点
ABC分析そのものは、Excelの並べ替えと簡単な数式で1回は作れます。難しいのは、それを毎月・毎期続けることです。続けていくと、次のような壁に当たります。
- 明細から得意先別・商品別への集計を毎回組み直す — ピボットテーブルの範囲や元データの貼り付け位置が、月ごとに少しずつずれていく
- 得意先名の表記ゆれで同じ会社が2行になる — 「(株)」と「株式会社」、全角と半角の違いだけで別の項目として集計され、順位が下がって見える
- 並べ替えると累計の数式が崩れる — 並べ替えの範囲に累計列が含まれていない、あるいは参照がずれて累計構成比が100%にならない
- 前年と比べようとすると、去年のファイルと突き合わせになる — 得意先の追加や統廃合があると、行がそろわず比較できない
- 得意先別と商品別で別々のファイルになる — 同じ売上明細から作っているのに、片方だけ修正されて数字が合わなくなる
どれも原因は同じで、集計した結果の表を手作業で保守していることにあります。Excel管理の限界そのものは予算管理にExcelの限界を感じたら?でも整理しています。まずはExcelで売上と予算を月別に並べる形から始めたい場合は、登録不要の無料テンプレートを使ってください。
明細を1か所に持ち、切り口は後から選ぶ
つまずく点を避けるには、持ち方を分けるのが近道です。
- 持つのは明細 — 「いつ・どの得意先に・どの商品を・いくら」という粒の細かい売上データだけを1か所に持つ
- 表は集計結果として都度作る — 得意先別・商品別・月別は、同じ明細から切り口を変えて出す
- 名前ではなくコードでまとめる — 得意先・商品にコードを振っておけば、表記ゆれで同じ相手が2行に割れることがなくなる
こうしておくと、得意先が増えても明細に行が増えるだけで、集計表の構造を直す必要がありません。得意先別のABC分析をした翌月に商品別で見たくなっても、軸を変えるだけで済みます。
ツールを使うとどこが楽になるか
Zidottoは、売上・費用・利益を自由な軸で集計し、予算と実績を並べて見える化できる予算実績管理ツールです。売上分析では、次のような点で手間を減らせます。
- CSV/Excel取込 — 販売管理や会計ソフトから出した売上明細を、そのまま取り込める
- 得意先・商品・月などの軸で自動集約 — 明細を入れれば、得意先別・商品別の集計表が自動で作られる
- 切り口の切り替え — 得意先別で見ていた売上を、商品別・担当者別・期間別に組み替えて表示できる
- 予算との同時比較 — 主力の得意先や商品について、計画に対する進み具合を同じ画面で確かめられる
- AIによる要約(解釈) — 表示中のデータを日本語で要約し、どの得意先・商品が全体を動かしたかへの気づきを後押し
商品 × 担当 × エリア × 期間で売上を組み立てるひな形はテンプレート一覧の「販売・売上計画」で、実際の画面は画面ツアーで確認できます。
まとめ
- 売上分析は、合計の1行ではなく「どこに偏っているか」から始める
- ABC分析は、項目を売上の大きい順に並べ、累計構成比でA・B・Cに分ける。70%・90%は目安で、一度決めた線を使い続ける
- 期間は直近12か月や当期累計でそろえ、税抜・税込や返品の扱いを先に決めておく
- 分けたらグループごとに管理の濃淡を変える。売上だけでなく粗利の列も足して、利益の出ない「A」を見落とさない
- Excelでは毎月の集計の組み直しと表記ゆれでつまずきやすい。明細を1か所に持ち、コードでまとめ、切り口は後から選ぶ設計にすると続けやすい